うどんこのお雑煮

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ロシア史6 動乱時代とロマノフ朝の成立 1600年頃

前回イヴァン4世の子、フョードル1世が残ったが、これが1598年に亡くなることで、リューリク朝が終わった。リューリク朝が終わったことによりただでさえ大変なのに、運が悪いことに遠く南米では火山の大噴火が起こる。その影響で極端な気温の低下、大凶作が起きてしまう。動乱時代の始まりである。

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フョードル1世が崩御し、目下の問題は次の皇帝を誰にするかということであった。ここでイヴァン4世が貴族たちを骨抜きにするために設立した会議、ゼムスキー・ソボールが開催され、皇帝選出を行うこととなり、ボリス・ゴドノフが選出される。庶民を交えたただの意見交換会だったゼムスキー・ソボールが、皇帝を選出する権力を持つよう、その性質を変えつつあったことが伺える。

皇帝に選出されたボリス・ゴドノフはイヴァン4世時代から信頼の厚かった部下であり、フョードル1世の時代も摂政として活躍した人物であった。が、さすがにリューリクの血筋を継いでいないのに皇帝になるのは貴族たちの反感を買ったし、さらにボリスが皇帝になったタイミングで記録的な凶作、飢饉が発生、次いで反乱も発生したためにその治世は上手くいかなかった。運のない男である。さらに1591年に事故死したフョードル1世の弟ドミトリーはボリスが殺したんじゃないか説が流れてしまい支持率がどん底に落ちる。

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ボリス・ゴドノフの肖像。運のない男である。

 

ここで1591年に8歳で事故死したはずのイヴァン4世の子、ドミトリーが生きていて、それは俺だと言い張る強者が出てくる。1603年、偽ツァーリ・ドミトリー一世である。彼が本当にあのドミトリーだと信じられたかどうかはともかく、ボリス反対派の神輿として担がれ、またロシア情勢への介入を企むポーランドなどの周辺国と、さらにロシア正教会規模縮小を目論む西のカトリックの思惑が絡み、結構な支持を受けた。さらにこのタイミングでボリスが崩御する。偽ドミトリーはこれはチャンスとばかり、皇帝でありボリスの息子でもあるフョードル2世を破り、モスクワ入城を果たした。ボリス・ゴドノフ、最後まで運の悪い男である。

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偽ドミトリー。頭は良かったらしい。

このときポーランドが裏で糸を引いているあたり、イヴァン4世が起こした戦争により対外的な悪い影響がモロに出ているところである。しかし歴史上、偽の権力者が出てくるというのは珍しくないが、ここまで勢力を伸ばしたヤツは珍しい。時代の流れに乗った、大した男である。ドミトリー一世の治世は実は一年も持たなかったが、この後一攫千金を狙って偽ドミトリー二世、偽ピョートルが出てくるあたり、ロシアらしいところである。

さて偽ドミトリーをポーランドが支援した、と先ほど書いたが、この時期ポーランドは動乱時代で弱体化したロシアをボコボコにしていた。なんとこのときポーランドはモスクワ占領までやってのけている。ロシア史終わりそうである。だが、このときロシアの民衆は義勇軍を結成しポーランドに対し独立戦争を仕掛けたのである。義勇軍のリーダーの一人クジマ・ミー人はただの肉屋だったというのだから驚きである。1612年にポーランドからモスクワを取り戻し、この独立戦争に勝利した11月4日は今でも国民団結の日として祝されているらしい。

再度ゼムスキー・ソボールが開催される。ここでの議題もとにかく皇帝を決めたいのであったが、ここで選出されたのは、リューリク朝の血筋をうすーーーく受け継ぎ、それほど有能ではなく、その父がボリス・ゴドノフに失脚させられてかわいそうという経歴を持っていた17歳の男、ミハイル・ロマノフという青年であった。結局のところ貴族からすると御しやすいとみられたであろうこの男から始まったロマノフ王朝であったが、これが意外と長く続くんである。